染色体異常をみつけたら Q&A −目次
inv(9)(p11q13)とPCS症候群
質問:
小頭症、左小眼球症、左水晶体欠損を持つ生後3ヶ月の女児で染色体検査を依頼したところ、次の核型でした。
46,XX,inv(9)(p12q13)
さらに、染色分体早期解離(premature chromatid separation; PCS)と呼ぶ現象を14.5%の核板に認めたと書いてありました。報告書に添付されていたPCS症候群の解説 [08b PCS症候群] を読むと、表現型が似ています。どう解釈したらよいか、ご教示ください。
回答:
1)inv(9)(p12q13)
日本人の40人に1人の割合で認める正常変異です [01b inv(9)(p12q13)]。
2)PCS症候群
この女児はPCS陽性細胞が49%以下で、MVA (mosaic variegated aneuploidy; 10%〜20%の核板にみられる多彩な染色体数異常のモザイク)を伴わないので、PCS症候群のヘテロ接合保因者です。PCS症候群患者(ホモ接合)では50%以上の細胞がPCS陽性で、MVAを認め、小頭症、小眼球(両側)、Dandy-Walker complex、Wilms腫瘍・横紋筋腫の発症など、特徴のある表現型を持ちます。ヘテロ接合保因者はPCS細胞の頻度が普通(2%以下)より多いだけで、表現型異常を伴いません。その証拠に、PCS症候群患者の両親はヘテロ接合保因者ですが、表現型は正常です。
染色体検査を依頼するからには、何らかの表現型異常があるのが普通です。この女児は、たまたまPCS症候群に似ているが違う表現型異常を合併していたのだと考えます。両親の染色体をしらべれば、親のどちらかが保因者でPCS陽性細胞を3%〜49%に認めるはずです。仮に女児がPCS症候群だと、両親の双方に3%〜49%のPCS細胞を認めるので、区別できるはずです。
(PCSの頻度は染色体標本作製のときの低張液処理の条件の違いによって大幅に変わるので、一定の方法に従って標本を作る必要があります。MVAの頻度は標本作製の影響をうけません。)
関連項目
01b inv(9)(p12q13)
08b PCS症候群