染色体異常をみつけたら Q&A −目次

t(21;21)転座トリソミーによるDown症候群

質問:

  Down症候群の男児の染色体分析で、次の結果でした。
        46,XY,t(21;21)(q10;q10)
  核型の意味・両親の染色体分析について、ご教示ください。

回答:

  1)t(21;21)(q10;q10) は21番の長腕(q)同士が転座してできた染色体を意味します。q10は実在しないバンドで、長腕が転座に関与していることを表すに過ぎません。派生染色体(der)なのでder(21;21)(q10;q10)とも書き、Robertson型転座なので、rob(21)(q10;q10) と表すこともあります。総染色体数が46なので転座21番染色体とフリーの21番(核型では省略してある)とがあることを示し、量的にはトリソミー21です。
  長腕のDNA多型が全く等しいイソ染色体(isochromosome)であることが多いが、そのときは次のように書きます。
        46,XY,i(21)(q10)
  ただし、こう書くためには本人と両親の一連の長腕DNA多型をしらべて、イソ染色体であることを証明しておく必要があります。イソ染色体はひとつの染色体の染色分体同士が転座してできます。
  2)t(21;21) によるDown症候群の臨床所見は、普通のトリソミーによるDown症候群と同じです。
  3)t(21;21) によるDown症候群112家系の両親の染色体分析では、3家系で親の片方がt(21;21) を低頻度で持つモザイクでした(Steinberg et al., 1984)。患児の同胞130例、half sibs 34例のうちDown症候群は1例もありませんでした。このように親が転座保因者である可能性は低いのですが、転座保因者であれば正常な児が生まれる可能性はないので、両親の染色体分析をしておくべきだと考えます。親が転座モザイクであれば、次の子は正常・転座トリソミーの両方の可能性があります。
  t(21;21) によるDown症候群の大部分はi(21;21)で、体細胞由来です(Kovaleva and Shaffer, 2003)。親にモザイク型転座が多い理由は、親の体細胞で染色分体同士の転座が生じたものとして説明できます。
  4)両親の染色体分析では、転座モザイクである可能性を考えて最初の20細胞は染色体数を数えて分析し、さらに30細胞について21番の数だけを数えます。転座トリソミー細胞ではフリーの21番染色体はひとつ、正常細胞では二つです。

文献
  Kovaleva NV, Shaffer LG: Under-ascertainment of mosaic carriers of balanced homologous ac-rocentric translocations and isochromosomes. Am J Med Genet 121A:180-187, 2003.
  Steinberg C, Zachai EH, Eunpu DL, Mennuti MT, Emanuel BS: Recurrence rate for de novo 21q21q translocation Down syndrome: a study of 112 families. Am J Med Genet 17:523-530, 1984.

関連項目
  02a  トリソミー21
  03e  Robertson型転座
  03ea  Robertson型転座のカウンセリング

梶井 [2006年8月1日]