染色体異常をみつけたら Q&A −目次

偶然に発見した均衡型相互転座

質問:

  大学病院にITPで入院した6歳の男児。表現型異常はありません。今度主治医になってカルテを見たら、前任の主治医が末梢血リンパ球の染色体検査を依頼したらしく報告書があり、均衡型相互転座です。
        46,XY,t(1;5)(p36.1;q34)
  前任の主治医は関連病院に出張していて、染色体検査を依頼した理由は不明です。両親にどう説明したらよいでしょうか。

回答:

  1)ITPと相互転座は偶然の合併だと考えます。一般集団を対象に染色体分析すると230人に一人は均衡型相互転座・Robertson型転座・逆位などの均衡型染色体構造異常を持っているので、ITPで相互転座を発見しても不思議ではありません [03a 均衡型相互転座]。染色体転座のためにITPを生ずることはないので本来は染色体分析をすべきではありませんが、分析して均衡型転座を発見したのは幸運だったと考えるべきでしょう。
  2)親のどちらかが男児と同じ転座を持っている確率は90% です [10c 両親の検査・出生前診断]。親が転座を持っていれば、次の妊娠で出生前診断を受ける必要があります。両親は次の子を生む予定はないかもしれませんが、もしそうなら次の妊娠に備えて両親の染色体分析をする必要はありません。しかし、親が均衡型転座を持っているとその同胞(患児の伯父・伯母)が同じ転座を持つ確率は50% だから、その意味で染色体分析をする利点はあります。何れにしても、両親と相談のうえで検査するか否かを決定すべきです。
  両親が染色体異常を持っていなければ、児の均衡型転座はde novo(新生)で、次の妊娠で羊水分析を受ける必要はありません。
  3)この男児が将来結婚し妻が妊娠したら、羊水分析を受けるのが合理的です。この転座では転座切断点がふたつとも末端に近いので、隣接-1分離によって不均衡型転座を生じてもその程度が軽く、そのため出生する可能性が高いと思われます。両親にこのことを説明し、男児の結婚後に備えて核型を記載した書面を渡しておき、男児が成人に達したら親が説明できるようにしておいてください。

関連項目
  03a  均衡型相互転座
  10c  両親の検査・出生前診断

梶井 [2006年8月1日]