染色体異常をみつけたら Q&A −目次

均衡型相互転座のホモ接合

質問:

  Charcot-Marie-Tooth病を疑ったが脳MRIで否定された24歳の男性で、父方の祖母と母方の祖母が姉妹です。20歳の表現型正常の弟がいます。男性は、末梢血リンパ球の染色体分析で次の核型でした。
        46,XY,t(14;16)(q13;p11.2) × 2
  この核型の意義について、ご教示ください。

回答:

  1)14番・16番染色体の均衡型相互転座を2組持つが正常の14番・16番を持たない状態で、名前をつければhomozygous reciprocal translocationです。
  2)両親はそれぞれこの均衡型相互転座を1組持つと推定されるので、末梢血リンパ球の染色体分析をお薦めします。両親が共に均衡型相互転座を持っていれば、本人の核型に転座の親由来を加味して次のように書きます。matは母由来、patは父由来を意味します。
        46,XY,t(14;16)(q13;p11.2) mat,t(14;16)(q13;p11.2) pat
  両親が共に均衡型相互転座を持っていれば、両親の祖母を経て共通の祖先(曾祖父か曾祖母)までがこの均衡型相互転座を持つはずです。同様な例としては、一対の相互転座を両親から受け継いでhomozygous reciprocal translocationになった胎児が、スイスから報告されています(Martinet et al., 2006)。
  両親が共に均衡型相互転座を持っていれば、この男性の弟は @ 均衡型転座2組の保因者、A 均衡型転座1組の保因者、B 正常核型、のどれかです。@ のこどもは常に均衡型転座1組を持ちます。A のこどもは正常核型、均衡型転座2組、均衡型転座1組、不均衡型転座、の可能性があります。
  3)この男性のCharcot-Marie-Tooth病様の疾患が常染色体性劣性遺伝の発現形式だとすると、転座が関係している可能性があります。
    @ 転座切断点にある遺伝子が転座によって切断されると、発症する確率は100%です。
    A 転座染色体は組換え領域を除いては共通の祖先に由来するので、組換えていない領域に劣性遺伝する遺伝子があれば、発症します。
    B 両親がいとこ婚なので、ゲノム全体の1/16がホモ接合です。言い換えれば、共通の祖先が劣性発現する遺伝子を持っていて、それが両親を経由して本人でホモ接合になれば、発現します。
  @〜B の順にホモ接合の可能性が高いので、それを念頭に置いて男性の疾患を再検討することをお勧めします。遺伝子とその坐位が知られている、遺伝子領域は知られているが遺伝子が同定されていない、疾患単位としても記載がなく遺伝子領域も不明、のどれかによって今後の対応が違います。未知の疾患の遺伝子領域を同定するきっかけになる可能性もあります。

文献
  Martinet D, Vial Y, Thonney F, Beckman JS, Meagher-Villemure K, Unger S: Fetus with two identical translocations: Description of a are complication of consanguinity. Am J Med Genet 140A:769-774, 2006.

梶井 [2006年8月6日]