染色体異常をみつけたら Q&A −目次
不均衡型相互転座の家系
質問:
34歳の既婚女性。妊娠42週で切迫仮死のため帝王切開で男児を出産。出生時体重2,850 g、心奇形、肝腫大を認め、生後6ヶ月で死亡。男児の染色体検査で、次の異常を認めました。
46,XY,add(5)(p15,1)
他の検査会社に依頼して母の染色体分析をしたところ、次の相互転座でした。5番染色体短腕の末端近くと13番染色体長腕の末端から1/3のところに、それぞれ切断点を持つ均衡型相互転座です。父は染色体正常です。
46,XX,t(5;13)(p15.3;q22)
母の同胞4人のうち、長兄は1歳以内に死亡、長姉は自然流産を2回経験した後に表現型正常な男児を産んでいます。母のすぐ上の姉は第一子が表現型正常な女児、第二子(男児)が生後6ヶ月で死亡しているので、さらに別の検査会社で検査したところ、次の核型でした。
46,XX,t(5;13)(p13;q14)
母の次回の妊娠で @ 胎児が不均衡型転座になる確率、A 出生前診断の可否、についてご教示ください。
回答:
母とその姉では転座切断点がわずかに違いますが、切断点の解釈が検査会社によって違うだけで、同じ転座だと考えます。相互転座の切断点の記載で3バンド以内の違いなら、許容範囲内です。母の核型が正しいとすると、その第一子の核型は不均衡型相互転座で、次のように書き換えることができます。
46,XY,der(5)t(5;13)(p15.3;q22)mat
母の均衡型転座の隣接-1分離により生じた不均衡型相互転座で、5p15.3から末端までの欠失(部分モノソミー)と13q22以下の付加(部分トリソミー)の組み合わせです。
1)不均衡型転座患者が発端者の家系で、転座保因者が不均衡型転座の児を生む確率は19.2% です(Youings et al., 2004)。均衡型転座を発端者とする家系では2.9%で、大幅に違います。
2)次の妊娠で出生前診断を受けるのが理論的に適当です。
3)この家系では母側の祖父母のどちらかが転座保因者で、3世代にわたって転座を継承していると推定できます。乳児期に死亡した長兄、長姉の2回の流産胎児は、いずれも不均衡型転座を持っていたと思われます。この家系のメンバーで表現型正常だが将来子を生む可能性のある者は、染色体をしらべておくべきでしょう。均衡型転座保因者だと分かったら、成人してから本人に告知してください。
文献
Youings S, Ellis K, Ennis S, Barber J, Jacobs P: A study of reciprocal translocations and inver-sions detected by light microscopy with special reference to origin, segregation, and recurrent abnormalities. Am J Med Genet 126A:46-60, 2004.
関連項目
03c 不均衡型転座