染色体異常をみつけたら Q&A −目次
der(14;15) 転座と口蓋裂
質問:
口蓋裂、呼吸困難を伴う乳児で染色体分析したら次の核型でした。
45,XX,der(14;15)(q10;q10)
両親の染色体分析では母は正常、父は女児と同じ転座を持っています。
45,XY, der(14;15)(q10;q10)
転座した14番または15番染色体の長腕に微細欠失があり、そのために口蓋裂を生じた可能性はないでしょうか。
回答:
der(14;15)は各種のRobertson型転座のうち5%を占めるだけの、比較的まれな転座です [03e Roberson型転座]。14番と15番染色体が転座したので14番・15番の短腕を失っていますが、その他は均衡がとれています。臨床所見との関係は次の可能性が考えられます。
1)偶然の合併
これが最も可能性が高いと思います。同じ転座を持つ父が表現型正常なのは、この解釈を支持します。
2)転座染色体の微細欠失
長腕の微細欠失を考えるのは核型のq10から長腕の切断を考えるせいだと思いますが、q10は長腕が転座に関与していることを示すに過ぎません。Robertson型転座の圧倒的多数は、アクロセントリック染色体の短腕の間で生じます。短腕の一部は失われますが、短腕には遺伝子がないので表現型には影響しません。結論として、長腕の微細欠失は理論的には不可能ではないが、現実には殆どないと思います。同じ転座を持つ父が表現型正常なのも、長腕に欠失がないことを支持します。
3)14番染色体の父側片親性ダイソミー [upd(14)pat]
転座に関与した14番とフリーの14番とが共に父由来であるために起きる異常です。乳児期の呼吸困難、釣り鐘状の胸郭、ハンガー状の肋骨を特徴とし、胸部レ腺写真をみるだけで診断できると言われています(Kagami et al., 2005)。この乳児では呼吸困難が主要所見なので、一応考える必要がありますが、この疾患で口蓋裂の報告はありません。臨床症状をよく観察して判定してください。
4)15番染色体の父側片親性ダイソミー [upd(15)pat]
転座に関与した15番とフリーの15番が共に父由来だとAngelman症候群になりますが、この症候群は口蓋裂を伴いません。
文献
Kagami M, Nishimura G, Okuyama T, hayashidani M, Takeuchi T, Tanaka S, Ishino F, Kurosawa K, Ogata T: Segmental and full paternal isodisomy for chromosome 14 in three patients: Narrowing the critical region and implication for the clinical features. Am J Med Genet 138A:127-132, 2005.
関連項目
03e Roberson型転座
03o 片親性ダイソミーと遺伝子刷り込み
04b Angelman症候群