染色体異常をみつけたら Q&A −目次
Complete Ring Syndrome
質問:
IUGRで生まれ、小学校2年生の今も-3 SDの低身長のほかは表現型正常で、均整のとれた女児です。成長ホルモンの分泌は普通で、知能も正常です。末梢血リンパ球の染色体分析で、次の核型でした。
46,XX,r(4)(p16q35)[23]/45,XX, -4[7]
低身長と染色体異常の関係について、ご教示ください。
回答:
4番染色体の短腕・長腕の末端近くで切断し、断端が癒合してできたリング染色体を持つ23細胞、リング染色体が失われてできた7細胞のモザイクです。リング染色体は不安定で細胞分裂のたびに失われた易く、その結果生じた染色体数45の細胞は排除されるために個体の細胞数が少なくなり、低身長になります。成長ホルモン治療の対象にはなりません。
リングは染色体の短腕・長腕の切断点がテロメアの繰り返し配列内にあると、切断によって遺伝子が失われないので低身長以外は臨床症状がありません。この状態を”complete ring syndrome”と呼びます (Sigurdardottir et al., 1999)[03l リング常染色体]。Complete ringは大きい染色体に生じ易いとされていますが、その中でも4番が多いようで、この女児はこれに相当すると思われます。リングを含むラインとリングを失ったラインのモザイクなので、“伊藤白斑”または色素形成異常症と呼ぶ皮膚のモザイクパターンを呈する可能性があります。自然光のもとで、背中・腹部・四肢などをよく観察してください。
すべての染色体の末端には(TTAGGG)nの繰り返しから成る配列があり、telomere sequenceと呼びます。これをプローブとした染色体FISH染色(alltelomere FISH)でリングが染まれば、短腕・長腕のどちらかまたは両方のtelomereがあることの証明になります。さらに、4p、4qのそれぞれのsubtelomeric unique sequenceをプローブとするFISH分析して両方ともあることを証明すれば、ほぼcomplete ringであることを証明したことになります。
文献
Sigurdardottir S, Goodman EW, Rutberg J, Thomas H, Jabs BK, Geraghty MT: Clinical, cytoge-netic, and fluorescence in situ hybridization findings in two cases of “complete ring” syndrome. Am J Med Genet 87:374-390, 1999.
関連項目
03l リング常染色体