染色体異常をみつけたら Q&A −目次

乏精子症とリングY染色体

質問:

     乏精子症の27歳男性の染色体分析をし、次の核型でした。

    46,X,+mar.ish r(Y)(DXZ1-,SRY++,DYZ3-,DYZ1-)[37]/r(Y) (DXZ1-,SRY+,DYZ3-,DYZ1-)[13]

  この核型の意味と乏精子症との関係について、ご教示ください。

回答:

  1)核型:Y染色体に替えて、小型のリング・マーカー(mar)染色体を認めました。このリング染色体はFISH分析でX染色体セントロメア陰性(DXZ1-)、Y染色体短腕先端近くの男性決定遺伝子SRYが1または2個陽性(SRY+ or ++)、Y染色体セントロメア陰性(DYZ3-)、Y染色体長腕のDYZ1領域陰性(DYZ1-)です。Y染色体長腕q11.2の精子形成に関係する領域の有無は不明ですが、欠けている可能性が高いと思われます。結論として、このリング染色体はY短腕の先端近くを持つが、セントロメアを持っていません。男性決定遺伝子(SRY)を持つので表現型は男性ですが、精子形成に必要な領域(Yq11.2)を持たないと推定されるので、乏精子症を伴います。
  2)このリング染色体がセントロメアを持たないにもかかわらず染色体として機能しているのは、ネオセントロメア(neocentromere)を獲得したからだと思われます。13番長腕・15番長腕に次いで、Yはネオセントロメアを獲得し易いとされています。ネオセントロメアについては、文献をご参照ください(Amor and Choo, 2002)。

文献
  Amor DJ, Choo KHA: Neocentromeres: Role in human disease, evolution, and centromere study. Am J Hum Genet 71:695-714, 2002.

関連項目
  05c  Y染色体の構造異常
  06a  男性不妊と無・乏精子症

梶井 [2006年8月1日]